更年期障害の漢方治療

【はじめに】

更年期障害、漢方では経断前後諸症などと称し、加齢に伴って腎精が減少し、その結果、肝、心、脾などが影響を受けて発生する陰陽失調とされています。
 腎精は五臓六腑を機能させる原動力であり、腎精の不足による臓腑の衰えにより、気、血、津液、精の生成も減少し、身体の恒常のために消費されると衝任に蓄えるほど余裕がなくなるため、閉経に至るとされています。また、気、血、津液、精の不足は更に五臓六腑の機能を失調させ、各臓腑間の関係も変調をきたします。
 しかしながら、加齢による腎精の減少は必然的に生じるが、全ての人が本症に悩まされるわけではありません。また、症状の種類や程度も十人十色です。これは、本症の発症には、身体的な要因だけでなく、精神的、環境的な要因が、関わっているためです。
 更年期を過ぎて、急速であった腎精の減少が緩やかになると機能が衰えたなりに落ち着き、精血不足の状態での調和を回復し、更年期障害の諸症状は鎮静化していきます。
 更年期障害の漢方治療は、急速な腎精の減少による乱れの幅を小さくしていくことを目標とし、その結果、様々な症状を改善していきます。

更年期障害の代表的症状

月経症状:
月経周期錯乱、月経過少或いは月経過多、崩漏、経閉

精神神経症状:
急躁易怒、精神抑鬱、不安、失眠多夢、気怯、驚恐、健忘、頭痛、頭重、眩暈、耳鳴、神疲乏力、四肢麻木、咽中炙臠、蟻走感

自律神経失調症状:
面紅多汗、盗汗、肢冷、手足煩熱、心悸、腰痛、肩痛、関節痛、悪心嘔吐、腹痛、便秘、下痢、食少、頻尿、残尿感、排尿痛

現代医学における「更年期障害の定義」

参考までに日本婦人科学会の更年期障害の定義を記載してみましょう。

 日本産婦人科学会の産婦人科用語解説集では、「更年期に現れる多種多様の症候群で、器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群であり、その症状はのぼせ、冷汗、冷え性、心悸亢進など主として血管運動神経障害、精神神経症状などが特徴でありその他、性器の変化、関節痛、腰痛など骨粗鬆症を含む。」と定義されています。
また、更年期障害の発生要因に関しては、エストロゲンの減少に加え、社会文化的な環境因子、個人の性格構造などの関与が指摘されています。

 ちなみに欧米には更年期障害に相当する用語はなく、更年期には独特の症状がみられるとされているのみです。
更年期障害=不定愁訴というのは我が国独特の概念ということになります。

漢方的にみた更年期障害の発生・悪化の仕組み

1.老化
 漢方では「腎は精を蔵す。」といいます。
加齢による腎精の減少は必然的に生じるが、全ての人が更年期障害に悩まされるわけではありません。しかしながら、腎精の減少が急速だと、陰陽のバランスがくずれ、腎陰虚や腎陽虚などの病証を引き起こし、様々な症状に発展します。

2.先天不足
 精や血などが生まれつき不足気味の方は、更年期になると腎精や肝血、心血などを消耗しやすくなるため、疲労倦怠感やイライラ、不安感、不眠などをはじめ、様々な症状が発症しやすくなります。

3.慢性疾患、過労、睡眠不足、房労過多、流産、中絶
 上記のようなことも腎精を損傷しやすいため、更年期障害を引きおこす要因となります。また、腎精だけでなく、心や肝の陰血や脾気なども消耗するため、諸症状の悪化の原因となります。本来は閉経前から、腎精を補う漢方治療をしておくと更年期を楽にのりきることができますし、普段の体調も良くなります。

4.精神刺激
 腎精は五臓六腑の原動力であり、そのため更年期に腎精が急激に減少すると五臓六腑の機能が衰えます。イライラ、不安、思慮過度などは、弱っている肝、心、脾、腎などをさらに痛めつけるため、更年期障害を悪化させます。

5.胃腸虚弱
 腎精は、飲食物から得られる水穀の精微により補充されています。また、気、血、津液は、水穀の精微から生成され、全身の臓腑、組織、器官を滋養し生命活動を維持しています。胃腸の機能が虚弱だと、精をはじめ気、血、津液の生成が不十分になり、五臓六腑などの機能も衰退するため、更年期障害を悪化させます。

6.飲食の不摂生
 飲食の摂取不足や偏食などから栄養が不足していると、胃腸虚弱の例と同じように、気、血、津液、精の生成が不十分になり、更年期障害を悪化させます。  また、辛い物や味の濃い物、脂っこい物などの過食や飲酒過多などは、心火、肝火、痰飲、瘀血などの病邪を生じ、更年期障害を増長します。

更年期障害の漢方治療のポイント

更年期障害は、腎精の減少が根本にあり、その部分が、一般的な自律神経失調などと、大きく異ります。様々な不定愁訴がみられますが、その基礎は腎精の不足になります。

 更年期障害において、十人十色の症状を治す治療を標治、根源となる腎精の不足を補う治療を本治といいます。標治と本治を併行しておこなうこと(標本同治)が、必要であり、治療の早道となります。また、事前に腎精を補っておくことは、更年期障害を予防するコツとなります。また、更年期は、五臓六腑が不安定になっているため精神的にデリケートになっています。イライラ、不安、思慮過度などに反応しやすくなるため、上手にストレス解消することも大切です。                   

 更年期は、次にくる新しい人生の節目のような時期です。漢方を上手に使って、快適に乗り切りましょう。