不妊症の漢方治療

妊娠を希望しているのに、なかなか恵まれず不妊症で悩んでいるご夫婦が増えています。
以前は、不妊症といえば女性の問題と思われがちでしたが、最近では、男性不妊のニュースを耳にすることもあり、当薬局でも、ご夫婦お二人で、不妊症の漢方相談にみえるケースも増えています。
漢方では、女性が原因の不妊症のことを“不孕”といい、男性が原因の不妊症のことを“不育”といいます。ここでは、不孕(女性の不妊症)をとりあげます。

月経・基礎体温

1.月経の状態

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中医学では、不孕の治療において、月経の調節がとくに重視されます。
子宮は、授かった新しい命が、この世に誕生するまでの間を過ごすベッドのようなものです。
そして月経とは、妊娠にそなえて整えられた子宮内膜が経血として排出されるもので、経血の状態は、子宮内膜のコンディションを知る重要な手がかりとなるのです。また、月経は、周期性をもって起こるのが特徴で、心身の状態や微妙なホルモンバランスに大きく影響されます。
新しい命を授かるためには、月経をめぐる一連の繰り返しが周期的にスムーズに行われることと、子宮内膜が栄養充分で、あたたかく快適なことが大切です。
月経の周期、経血の量や色、月経痛の有無、月経前症候群の有無、不正出血の有無など、月経の状態を細かくチェックして、それを調えていくよう、漢方治療の方針を探っていくのです。

2.基礎体温表のパターン
妊娠を希望している方のなかには、基礎体温を測っている方は多いのではないでしょうか。
基礎体温表の二相性を確認することで、排卵があるかどうかと、およその排卵日を確認することができます。それだけでなく、不妊症を漢方的に分類するために、とても有効な情報となるのです。
基礎体温表のパターンがギザギザと上下していないか、高温期がしっかりと上がっているか、高温期の途中で下がり気味になってはいないか、月経が始まってから基礎体温の下がり方はスムーズか…などをチェックすることによって、漢方的に見た体質を推測することができます。
そして、服用していただいた漢方薬の効果は基礎体温表のパターンに反映され、体調の変化を目で見て確認することができます。
つまり、基礎体温表は治療方針を決定するためにも、治療効果を確認するためにも、とても役立つ情報といえます。
基礎体温を測っていない方は一度測ってみては、いかがでしょうか。

月経・妊娠と五臓の関係

身体を構成している五臓(肝、心、脾、肺、腎)のうち、月経や妊娠・出産に関係が深いのは、腎・肝・脾です。

1.月経・妊娠と腎の関係
漢方では、「腎は精を蔵し、生殖、発育を主る」といいます。腎・肝・脾のうちでも、月経や妊娠・出産に、とくに関係が深いのは、腎です。

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精は生命の根本であり、腎に蓄えられているので、「腎精」ともいいます。「腎精」は成長発育・生殖に深く関わっています。腎精の働きによって、人は成長発育し、歯が生えかわったり、髪が伸びたりします。そして、思春期を迎えた女子に対し、月経を開始させ生殖可能な状態にするのも、腎精の働きです。つまり、月経や妊娠・出産に最も重要な働きを担っているのが、腎であり、腎に蓄えられた精なのです。
ですから、妊娠・出産を希望するのであれば、腎の働きが充分かどうか、しっかりと見極め、補うことは必須だといえます。
では、腎の働きが充実していれば、それだけで、よいのでしょうか?

2.月経・妊娠と肝の関係
漢方では、「肝は疏泄を主る」といいます。全身の機能をスムーズに行っているのは、肝の働きによるものです。月経の状態(月経周期、経血量、月経前の体調不良(PMS)や排卵痛など)も同様です。
ストレスを感じると、五臓のどれもが影響を受けますが、肝が影響を受けるケースが多くみられます。
ストレスによるイライラや不安など精神状態は、月経の状態に大きく影響します。月経周期が早まったり遅れたり、経血量が多くなったり少なくなったり、月経前になるとイライラしやすかったり、乳房が張ったり…。精神的ストレスを受けることで、気の流れが滞り(気滞)、月経の状態、全身のさまざまな機能がスムーズに働かなくなってしまうのです。漢方では、肝の疏泄が失調していると考えます。
めまぐるしく社会が変化し、ストレスの原因は尽きませんが、ストレスをためこまないよう、適度なスポーツや趣味などで、気分転換をこころがけましょう。肝の疏泄を順調にして、月経の状態を改善する漢方薬もあります。
順調な月経・妊娠のためには、肝の疏泄を順調にしておくことが大切です。

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また、「肝は血(けつ)を蔵す」ともいいます。肝は血(けつ)を蓄えるタンクの働きもしています。漢方でいう血(けつ)の働きのひとつに、「全身を栄養し滋潤する」ということがあります。
この血(けつ)によって、子宮内膜が作られますし、また、排卵に向けて卵子が成長するためにも、妊娠したら赤ちゃんが成長するためにも、血(けつ)は欠かせません。肝に充分な血(けつ)を蓄えていることが必要です。

*瘀血
気や血(けつ)は、滞りなく全身をめぐっていることが大切です。血流が悪いために起こる症状を、漢方では「瘀血」といいます。
月経痛が激しい、刺すように痛む、夜中に痛みがひどくなる、経血の色が黒っぽく塊が混じる、唇や爪の色が紫がかっている、目のまわりにクマができやすい…という方は、瘀血かもしれません。
瘀血があることで、子宮内膜症や子宮筋腫などをひきおこしたり、着床しにくくなったり、稽留流産を起こしやすくなったりします。
「瘀血」の原因はさまざまです。ストレスなどによる「気」の滞り、過労などによる「気」の不足、冷え(冷え性の体質・冷えやすい環境や生活習慣など)によって血流が悪くなるケース、ケガや手術などで血流が悪くなるケース、病気が長引いておこるケース…など。
瘀血を改善するためには、その原因に対処することが大切ですが、改善できるまでには、時間がかかります。
早めにケアを始めることと、根気よく続けることが必要です。

3.月経・妊娠と脾の関係
漢方では、「脾は運化を主る」といいます。脾の運化には、水穀の運化と、水湿の運化があります。
水穀の運化とは、飲食物から身体に必要な物質を取り出して変化させ、全身に送り届けることです。
漢方では、飲食物のことを水穀、水穀から得た必要な物質を「水穀の精微」といいます。水穀の精微が気や血(けつ)を生成する基礎物質となり、気や血(けつ)が五臓六腑の正常な生理活動を維持します。つまり、脾の運化が失調すると、気や血(けつ)を充分に作ることができなくなり、その結果、五臓六腑の正常な生理活動が維持できなくなってしまうのです。
水湿の運化とは、身体に必要な水液を飲食物から吸収し、全身に送り届けることです。
脾は、肺・腎とともに、身体内の水液代謝を維持しています。脾の水湿の運化が失調すると、津液(身体に必要な水液)が不足したり、痰飲などの病理産物が生じたりします。
月経や妊娠・出産に必要な気・血・津液を飲食物から吸収し、身体の必要なところに送り届けるために、脾は重要な役割を果たしているのです。

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「脾は昇を主る」「脾は統血を主る」ともいいます。
漢方でいう“気”の働きのひとつに固摂作用というものがあります。身体を構成するものが、下がってしまわないように、漏れ出してしまわないように、保っておく作用のことです。
固摂作用が失調すると、胃下垂や脱肛、子宮脱、流産・早産などになったり、また、内出血、鼻出血や不正出血など出血しやすくなることがあります。
不正出血や流産・早産を防ぎ、月経や妊娠・出産を順調にするためにも、固摂作用は重要です。ただし、固摂作用は、脾に限った作用ではなく、ここでは、腎の固摂作用が大きく関わっています。また、気を生成するのに必要な水穀の精微を飲食物から得るのは脾の働きです。脾、腎をはじめとする五臓がきちんと機能することが大切です。

*気血の不足
漢方では、身体に必要な物質を正気といい、正気には、気、血(けつ)、津液、精があります。気と血(けつ)は全身をめぐり、生命活動をおこなうために使われます。卵子を成長させるためにも、子宮内膜を厚くするためにも、気と血(けつ)が必要です。気と血(けつ)が不足しているようなら、補う必要があります。
気と血(けつ)は、食べたものを材料に、脾の働きによって作られます。
日常生活では、バランスのよいお食事を心がけ、心身の過労に気をつけることが大切です。そして、脾の働きを助ける漢方薬や補血をする漢方薬を選んで使うと効果的です。日本人は、脾の働きが弱い(脾虚体質)方が多いようです。
漢方薬を選ぶ時は、脾虚や気と血(けつ)の不足がないか、また、選んだ漢方薬が脾の負担になっていないか、見極めることが大切です

*身体の冷え
不妊症でお悩みの方には、お身体が冷えている方が多いようです。
もともとの体質が冷え性だという方、職場環境や生活習慣のために冷えている方、ファッションのために冬でも薄着をしている方、飲食物でお身体を冷やしている方、冷えているのに冷えをあまり自覚していない方など、さまざまです。冬の寒さだけでなく、夏でも外出先、交通機関での冷房の効きすぎで冷えを感じている方も多いことでしょう。日常生活でも、衣食住などを工夫して、冷えないように気をつけることが必要です。
冷えがあることによって、「瘀血」や「気血両虚」「固摂低下」を悪化させることがあり、これらは、月経痛や早産・流産などにつながります。早めに体質改善することをおすすめします。
冷えを改善するのは、漢方薬の得意分野で、数多くの漢方薬があります。その方の体質に合わせた漢方薬をお選びいたします。

4.月経・妊娠と五臓の関係
前に述べたように、身体を構成している五臓(肝、心、脾、肺、腎)のうち、月経や妊娠・出産にもっとも関係が深いのは、腎です。そして、脾や肝の働きもとても重要です。腎や脾、肝の働きが充分か、精・気・血(けつ)・津液の不足がないか、それらの流れが滞って生じる病理産物(瘀血・気滞・痰飲)が生理機能の妨げになっていないか…などを考えていきます。

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漢方相談をお考えの方へ

1.漢方相談は、あなたの今の状態に合わせて!!
不孕の漢方相談には、いろいろな方がいらっしゃいます。
まだ婦人科の検査を受けたことがないという方もいらっしゃいますし、すでに、顕微授精など高度不妊治療を受けている…という方もいらっしゃいます。
月経に関してこれといったトラブルがないのに…という方もいらっしゃいますし、子宮筋腫や多嚢胞性卵巣症候群PCOSなど、婦人科の疾患もあるという方もいらっしゃいます。年齢も20才代から40才代まで…。
漢方相談には、さまざまな方がいらっしゃいますが、どんな方に対しても、その方の状態に合わせて、妊娠しやすい体調に整えていくようお手伝いします。
まずは、お電話でご予約の上、ご相談ください。

2.婦人科の検査を受けて、疾患がみつかった方。
「子宮筋腫」「子宮内膜症」「子宮線筋症」「チョコレート嚢腫」「卵巣機能低下」「黄体機能不全」「高プロラクチン血症」「多嚢胞性卵巣症候群PCOS」「黄体化未破裂卵胞」「子宮頸管粘液不全」などと診断された方もいます。これらの疾患は、不妊症の原因ともされています。漢方治療の方針を決定する際には、これらの疾患が発症するしくみについて、充分考慮します。
その疾患と、その方の月経の状態、体質をよくお聞きし、漢方では、どんな状態なのか、「陽虚証」「肝気鬱結証」「気血両虚症」「瘀血証」「腎虚証」などに置き換えて考えます。

3.人工授精や体外受精・顕微授精をしているのに着床につながらない方。
月経の状態や基礎体温表のパターン、体質などから、その方の着床しにくい原因を考えます。漢方では、「腎虚証」「気虚証」「陽虚証」「血虚証」「瘀血証」などに分類して、その方に合った漢方薬をセレクトし、子宮内膜の状態・卵胞の状態を着床につながるよう改善していきます。

4.流産の経験のある方、「習慣性流産」「不育症」などと診断された方。
流産には「稽留流産」「切迫流産」がありますが、流産したときの状況から、漢方でいうとどんな状態だったのかを考えます。そして、それを改善するために、その方に合った漢方薬をお選びします。
卵胞や子宮内膜の質をよくすること、着床しやすくすること、流産しにくくすることは不妊症の治療において、とても大切なことです。これらは、漢方薬の得意とする分野です。

5.二人目不妊でお悩みの方。
「一人目は、すぐできたのに、なぜ??」最近では、お子様連れで、不妊相談にいらっしゃる方も増えています。体質や月経の状態は、変化して当然です。妊娠前の状態から出産後の状態、今の状態をよくお聞きして、「二人目不妊」の原因を考え、その方の体質に合わせて、月経の状態を改善していきます。

6.とくにトラブルがないのに…という方。
また、これといったトラブルが見当たらないのに妊娠しない場合には、月経周期を「月経期」「低温期」「排卵期」「高温期」に分割し、時期ごとに漢方薬をのみ分ける「漢方周期療法」を行います。「漢方周期療法」といっても、一律のものではなく、当薬局では、その方の体質に合わせた、いわばオーダーメイドの周期療法を行っています。

不孕の漢方治療のポイント

漢方薬で、妊娠・出産しやすい体調に整えていきましょう。

漢方では不妊症でお悩みの方の体質を、「腎陽虚証」「腎陰虚証」「気血両虚証」「肝気鬱結証」「痰湿証」「血瘀証」などに分類しますが、単独で起こることは少なく、いくつかが複合して起こることがほとんどです。
さらに、日本人は胃腸の弱い方が多いようです。このことを漢方では「脾虚」といいますが、これが、不妊症の直接的あるいは間接的な原因になっているケースも多くみられます。
その方のお身体の状態がどんな状態になっているのかをよく見極めて、治療方針を決定し、丁寧に漢方薬をお選びいたします。

当薬局では、これらの点を充分に考慮したうえで、「中医婦科学」をベースに、日本人の体質に合わせた漢方治療を行っています。

当薬局では、不妊症のご相談は不妊漢方アドバイザーの資格をもつ女性薬剤師が主に対応させていただいております。出産経験もありますので、わからないこと、困ったことなど、お気軽にご相談下さい。