糖尿病の漢方治療

【はじめに】

糖尿病は漢方では「消渇」という病証に相当します。
消渇とは、口渇引飲、消穀善飢、小便頻数量多を主要症状とする病証をいい、さらに口甜、尿甜、身体消痩、小便混濁などもみられます。
口渇引飲は「多飲」、消穀善飢は「多食」、小便頻数量多は「多尿」ということから「三多」、或いは「三消」ともいわれ、更に消痩も含め、「三多一消」などと称されることもあります。

参考

参考として日本糖尿病学会の糖尿病の診断基準を見てみましょう。

A 次の①~④のいずれかに該当する場合には『糖尿病型』と判定。
①早朝空腹時血糖値≧126mg/dl
②75g糖負荷試験2時間値≧200mg/dl
③随時血糖値≧200 mg/dl
④HbA1c(国際標準値)≧6.5%(JDS値≧6.1%)

B 別の日に再検査を行い、再び「糖尿病型」が確認されれば糖尿病と診断する。
但し、HbA1cのみの反復検査による診断は不可とする。

C また、血糖値とHbA1cが同一採血で糖尿病型を示すこと
(①~③のいずれかと④)が確認されれば、初回検査だけでも糖尿病と診断してよい。
なお、HbA1c(国際標準値)は現行のJDS値で表記されたHbA1c(JDS値)に0.4%を加えた値で表記する。
また、ストレスのない状態での高血糖の確認が必要である。

D 血糖値のみが診断基準を満たし「糖尿病型」(①~③のいずれか)と判定される場合は、
糖尿病の典型的な症状(糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在)、 確実な糖尿病網膜症(確実な糖尿病網膜症の存在)のいずれかを認める場合に糖尿病と診断する。

[糖尿病の診断基準(2010:日本糖尿病学会)]

漢方における糖尿病の分類

消渇(糖尿病)は、病因の存在する部位によって上消・中消・下消の3つに分類されるのが一般的です。
上消は肺に属し口渇引飲を主症とします。中消は脾胃に属し消穀善飢を主症とします。
下消は腎に属し小便頻数量多を主症とします。
漢方の重要な古典である『丹渓心法』や『医学心悟』には、下記のように書かれています。

「上消なる者は肺なり、水飲むこと多くして食少なく、大小便常の如し。中消なる者は胃なり、水飲むこと多くして小便赤黄なり。下消なる者は腎なり、小便濁淋すること膏の状の如し、面黒くして痩す。」
《丹渓心法・消渇》

「渇して多飲を上消と為し、消穀善飢を中消と為し、口渇し、小水膏の如きを下消となす。」
《医学心悟・消渇》

漢方における糖尿病の発症原因

1.飲食の不摂生
甘いもの、脂っこいもの、味の濃いもの、辛いものなど過食、飲酒過多などにより胃熱が形成され、
陰液を消耗すると陰虚燥熱となり、消渇(糖尿病)を発症します。

「肥なるものは人をして内熱せしめ、甘なるものは人をして中満せしむ、故にその気上溢し、転じて消渇となる。」
《素問・奇病論》

「趺陽の脈数なるは、胃中に熱有り。即ち消穀して食を引き、大便必ず堅く、小便即ち数。」   《金匱要略・消渇小便利淋病脈証》

2.精神刺激
怒り・ストレスなどによる精神刺激により、肝火上炎や心火亢盛を生じ、熱盛傷陰すると陰虚燥熱となり、消渇(糖尿病)を発症します。

「怒れば則ち気上逆し、胸中に蓄積し、血気逆留し、皮に臗がり肌に充ち、血脈行かず、転じて熱と為り、熱あれば則ち肌膚を消し、ゆえに消癉と為る。」
《霊枢・五変篇》

3.房室不節
房室過度により腎精を損耗し、陰虚火旺となり、陰虚燥熱の形成から消渇(糖尿病)を発症します。

「房室過度にて腎気を虚耗せしむるに致り、下焦に熱を生じ、熱すれば則ち腎燥き、燥けば則ち渇す。腎虚して水液を制するを得ず、故に飲むに随い小便す。」
《外台秘要・消渇消中》

4.臓腑虚弱
臓腑が虚弱であると、正気(気・血・津液・精)が不足し、消渇(糖尿病)を生じやすい。
また、虚熱などの内熱の発生も本病の原因となる。
肺の宣降失調による化熱、脾胃の陰虚、肝陽上亢、腎陰虚火旺などがある。

「五臓皆柔弱なる者は、善く消癉を病む。」
《霊枢・五変篇》

「心脆ければ則ちよく消癉熱中を病む。」
「肺脆ければ則ちしきりに消癉を病み傷られ易し。」
「肝脆ければ則ちよく消癉を病み傷られ易し。」
「脾脆ければ則ちよく消癉を病み傷られ易し。」
「腎脆ければ則ちよく消癉を病み傷られ易し。」  
《霊枢・本臓篇》

漢方的にみた糖尿病の発生の仕組み

消渇(糖尿病)の主な病機は陰虚燥熱であり、陰虚が本、燥熱が標とされています。
陰虚すれば水液が不足するために燥熱が盛んとなり、燥熱が盛んとなればさらに津液を灼傷します。
また、消渇は五臓すべてと関連があるが、中でも肺、脾(胃)、腎と関わりが深いです。

1.肺熱津傷
〈肺は気を主り、宣発と粛降を主り、水道を通調する〉
飲食不節による胃熱や精神刺激による心火・肝火、腎陰虚火旺などにより生じた火熱が肺に上擾し、陰虚燥熱から上消渇となります。肺の宣降失調から全身に津液を輸布できず、陰虚燥熱が悪化します。
燥熱により気や津液を損傷すると気陰両虚を生じます。

「心、熱を肺に移せば、伝わりて膈消となる。」
《素問・気厥編》

2.胃熱熾盛
〈脾は後天の本であり、運化を主る。胃は水穀の海であり、受納を主る。両者の作用により水穀精微の輸布や水液の運化を行っている。〉
飲食不節や気鬱化火などにより燥熱を生じ脾胃を傷ると、胃火が盛んとなり脾陰が不足し陰虚燥熱となり、中消渇となります。脾気の不足が生じると水穀の精微が輸布されず下へ流れ、小便となるため尿に甜味が生じます。
また、肌肉が水穀の精微により濡養されず徐々に消痩となります。

「癉成れば消中を為す。」
《素問・脈要精微論》

3.腎陰虚
〈腎は先天の本であり、精を蔵している。〉
腎陽は真陽・元陽と呼ばれ、腎陰も真陰・元陰と呼ばれて、全身各臓腑の陰陽の根本となっています。
腎陰も腎陽も共に腎の精気がその物質的基礎になっています。腎陰が不足すると虚熱が生じ、心肺を灼傷すれば口渇引飲、
脾胃を犯せば胃熱を生じて消穀善飢となります。
また腎気の不足から開闔失調すると小便頻数量多、尿混濁などの症状がみられます。久病となると腎陰虚から陰損及陽により、腎陽虚を発生し腎陰陽両虚となります。 

「腎の熱病の者は、先ず腰痛み、渇に苦しみ、数しば飲み、身熱す。」
《素問・刺熱論》

4.血瘀
消渇変証(合併症)は、心筋梗塞、脳梗塞、しびれや痛みなどの神経障害、白内障、網膜症、皮膚疾患などの瘀血が関与するものが多くみられます。
消渇の基本病理は陰虚燥熱ですが、この病態が長く続くと更に津液が消耗し、血液粘度が高くなり、瘀血証を併発しやすくなります。

漢方的にみた糖尿病の発生の仕組み

食養生

甘いものや炭水化物を控えるなどの現代医学の食事療法も大切ですが、漢方では、五味(酸・苦・甘・辛・鹹)をバランスよく摂ることも重視しています。
五味はそれぞれ肝・心・脾・肺・腎の五臓に入ると考えられており、消渇病は五臓に及ぶ病気であるため、五味をまんべんなく摂ることや一味の過食をしないことが大切です。
そのような観点から、「多種類の食物摂取」を心がけ、「単一食物の過食」を戒めることが必要になります。

糖尿病の漢方治療のポイント

前述のような様々なパターンで、消渇(糖尿病)は発症します。
漢方では、消渇(糖尿病)の状態や経過、随伴症状などを考慮し、「燥熱傷肺」「肺胃実熱」「心火上炎」「肺胃陰虚」「気陰両虚」「肺腎両虚」「腸胃燥結」「肝胃鬱熱」「胃陰虚」「脾胃気虚」「中焦虚寒」「肝気鬱結」「腎陰虚」「心腎不交」「腎陰陽両虚」等々に分類し、更に症状、体質を分析して、治療方法や漢方処方を決定します。
当薬局では、約五十種類ほどの薬方を使い分けていきます。複数のパターンが混在している事もあります。
最近では、食生活の不摂生だけでなく、ストレスの影響が強い糖尿病も多く見られます。